クーデターはやる気と材料があれば素人でもできる!
クーデターは、革命や内戦と似ているが、必ずしも大衆の蜂起や大規模な戦闘を必要としない点で異なっている。クーデターは、国家機関の中の小規模でも決定的に重要な部分への浸透によって成り立つ。つまりは国家の官僚的機構は温存したままその支配権を奪ってしまうということで、あからさまな戦いや強烈な思想的背景1なしに国家の権力を”そのまま”活用する。
芯を食ってないたとえで申し訳ないが、クーデターは目標となる家の家主を追い出して家具はそのまま使うようなものだ。家主を追い出したからといって家を更地にしてまた建て直す必要はないだろう。クーデターは家具付き物件。はい。
クーデターの条件
この本はクーデターのための”使える”ハンドブックとして書かれている。1972年のモロッコ王国におけるクーデターでは、実行者の机のうえに多くの書き込みがある本書(のフランス語訳)が発見されたという2。実際、この本はクーデターの際にどのような人間に連絡をとればいいか、どのように軍や警察を中立化するべきか、クーデター決行の日にはどのように行動すればいいか、といった実用的な注意に満ちている。
- これらの具体的な注意について知りたい!
- 自分もクーデターに挑戦してみたい!
というひとは本書を読んでいただくとして、ここではクーデターを実行するための条件について述べておこう。クーデターはどんな国家でも実行できるというわけではない。たとえば、現代の日本においてクーデターを起こし権力を掌握することはほぼ不可能であろう。では、クーデターが実行しうる国家とはどのような国家なのか?
低レベルな社会・経済
国民の教育程度が高くなく、政治的に成熟していない国家においてクーデターは成功しやすい。このような国家におけるクーデターは、
…クーデターが終わると、村の巡査官がやって来て布告書を読み上げる。ラジオは、旧政権は腐敗しており、新政権は食料や医療や学校、さらには栄光すらもたらすと放送する。大多数の人々は、こうした約束や告発を信用する、しないにせよ、こうしたことは全てどこか遠いところの出来事としか感じない。
本書p58、強調は新たに付け加えた。
といったような形で受け入れられる。このような無関心はクーデターを実行する側にとってぜひとも必要だ。
独立性条件
クーデターの対象となる国家がじゅうぶんに独立していて、他国の介入を受けにくいこともクーデターが成功するための条件のひとつだ。クーデターの目的は政治的権力の厳選を握ることにあるが、権力が他の国に握られてしまっているような国では「そもそも奪取すべき権力がない」からだ。たとえば1956年のハンガリー動乱では、ほとんどの部分においてクーデターは成功しているように見えたが、前政権の後ろ盾となっていたソ連軍の介入により失敗した。
より具体的に述べれば、
- 大国の兵力が置かれている国においてはクーデターは成功しにくい
- 大国の人間が「顧問」として多く働いている国でクーデターを起こそうとする場合は、その大国の承認を得て、意向に沿うようなかたちでクーデターを起こす必要がある
といえる。
国家の統一性
また、クーデターの対象となる国家は、政治的な中心をもっている必要がある。たとえば複数の地方政府が存在し、そのどれもが「本物の」権力を握っている場合にはクーデターは複雑なものとなる。このような場合には各地方政府の首都で個別にクーデターを仕掛けなければいけなくなるが、当然クーデター側の勢力は分散し、阻止されやすくなる。
たとえば、1960年ごろのコンゴは混迷をきわめており、特に南部は
- 伝統的な首長たち: 部族の戦士を率いる
- 南カサイ独立派: 「王」アルベール・カロンジが率いる
- 中央政府: いちおう兵力は持っているが統率力はない
- フェミニオール鉱山会社: カロンジ派やその他の集団を援助
という様になっていた。このようなときに中央政府でクーデターを起こしたとしても、支配できる範囲は微々たるものだろう。
特に、国家が非政治的・民族的な組織によって支配されている場合はクーデターは成功しない。どういうことかというと、指導者が世襲などの伝統的な手段で選ばれる国家でクーデターを起こしたとしても「よそ者」扱いされ、伝統的な指導層の支持をえることができないからだ。
たとえばアメリカ合衆国連邦政府が外宇宙からやってきたレプティリアン――爬虫類型宇宙人に支配されているとしよう3。このとき、ワシントンD.C.でクーデターを起こしたとしても決して権力を握ることはできない。このアメリカは連邦政府の政治的な動きとはまったく別のレベルにおいて支配されているからである。クーデターは軍事的なものではなく政治的なものであって、非−政治的なものにクーデターは通用しない。
こんな人におすすめ
- クーデターの計画を練っている最中だというひと
- 部下にクーデターを起こされないか不安だというひと