書評

「ゲルマニア」タキトゥス

「ゲルマニア」は古代ゲルマン民族についての最古の記録であり、まさに帝政ローマをおびやかさんとする民族について、その質素剛健で勇壮な姿をえがきだしている。筆者はタキトゥス。ネルヴァ・トラヤヌス帝時代の大歴史家であり、共和主義者。抑制的ながら鋭い筆致はまさに名人芸だ。ただしティベリウス帝に対しては点が辛い。

「ホワイト・ライト」ルーディ・ラッカー

「ホワイト・ライト」はなんだかとんでもない小説である。主な題材となっているのは無限の概念で、その中でも特に連続体仮説が取り扱われている。これは、集合論という分野そのものの成立に深くかかわっており、集合論の王道に位置する命題だ。連続体仮説でひとつ小説を書き上げることなんてできるのだろうか。それがどうやらできてしまったらしい。

「ココナットの実」夢野久作

この話は夢野久作の短編のなかでもそう有名なほうではないと思う。ところがこれは、悪魔のような美少女がブルドックみたいな成金と身長2mの童貞インド人と骸骨みたいに痩せこけた共産党員に惚れられていて、それでいて誰のものにもならずに神戸海岸通のレストランでひとり高笑いをする……という最高の短編なんである。

「生き延びるためのラカン」斎藤 環

ラカンはフロイトの唯一にして真正な後継者である。……などと書くとどうも宗教じみているが、まあそこそこ当たっているのではないか。彼はフランスで最も偉大な精神分析家であり、また哲学者であり、その理論は晦渋で知られる。一方、ソーカル事件で槍玉に上げられた人物としてその名を記憶している人もいるだろう。

バイオレンス: TRPG

VioLence™は、他社から出ているダンジョンズ&ドラゴンズ®によく似ている。お前とお前のダチは、想像上の世界に存在する人物を演じることになる。迷路をさまよい、ドアを蹴り破り、その先にいる者を全てぶち殺し、有り金全部はぎ取るのだ。

「無門関」

「無門関」は、南宋の禅僧・無門慧開の手になる禅の公案集であり、禅者にとってのジャズスタンダードバイブルのようなものである。今のは忘れてください。さて公案というのは禅匠が弟子にあたえる問い、課題のようなものだ。それは逆説的であり超越的で、矛盾に満ちている。少し見てみよう。

「完全自殺マニュアル」鶴見済

この本はたいへんに有名である。初版は1993年、すなわち平成5年の7月。まえがきなんかは前世紀末の香りが漂うが、全体としては思想のない自殺マニュアル(ケーススタディつき)となっている。

パラノイア 【トラブルシューターズ】

…昔の専制君主は『汝、なすべからず』と命じた。全体主義の命令は『汝、なすべし』だった。われわれの命令は『汝、これなり』なのだ。

「創作人物の名前について」夢野久作

小説を書こう、物語をつくってみようとしたときに、最初に困るのは登場人物の名前をどのように決めるかということだろう。ぼくも小説みたいなのを書いてみたことはあるが、小説を書き出さないうち、名前を決める段階でウンウン悩んでいることは多かった。

「競走馬の科学」

競馬がけっこう好きだ。はじめて見た日本ダービーは2016年(マカヒキ)で、サトノダイヤモンドとの壮絶な叩きあいを記憶している。 あと場所柄、宝塚記念を見にいくことが多い。マリアライトがキタサンブラックとドゥラメンテを差し切ってぼくの馬券が紙くずになったり、ミッキーロケットが第4コーナー回ってきてすごい迫力で早め先頭に立ったかと思ったらおまけに香港のワーザーなんか来ちゃってぼくの馬券が紙くずになったりしたことが思い出ぶかい。