パラノイア 【トラブルシューターズ】

パラノイア【トラブルシューターズ】

…昔の専制君主は『汝、なすべからず』と命じた。全体主義の命令は『汝、なすべし』だった。われわれの命令は『これなり・・・・』なのだ。

「1984年」ジョージ・オーウェル

はじめに

ぼくはそれほど熱心なTRPGプレイヤーというわけではないのだが、いちばん好きなTRPGは何かと問われたら迷わずパラノイアを挙げる。ディストピアSF的世界観の魅力もさることながら、閉塞感の中にある自由、真の意味での裏切りと騙し合い、手詰まりになった者の暴発、脳が加熱する感じ、陰気な大笑い、これらが味わえるのはパラノイアだけだからだ。パラノイア、サイコー!(カメラ目線)

レーザーガンを手放すな

TRPG「パラノイア」は1984年に発表され、しばらくの間は日本語のルールブックがなかった。だが、2014年に25周年記念版「パラノイア【トラブルシューターズ】」が翻訳されるはこびとなり一気にプレイがしやすくなった。その後も「【インターナルセキュリティ】」「【ハイプログラマーズ】」などが続々と翻訳されている。【トラブルシューターズ】はそのなかで最もベーシックなものだ。まずその基本設定をみてみよう。

アルファコンプレックス非史

コンピューター1紀元214年。パラノイアの舞台となるのはアルファコンプレックスという地下シェルター都市で、コンピューターに統治されている。コンピューターは完全に狂っており、都市が共産主義者ミュータント秘密結社員や他のシェルター都市のスパイといった反逆者たちよって危機に晒されている……と思い込んでいる。

アルファコンプレックスの市民はすべてクローン技術によって出壜・ ・2する。(余談だが各市民のクローンは6体ずつ生産されている。ゲーム的にいうと残機6ということですね)。社会は厳密に階層化されており、市民は

  • 赤外(インフラレッド|INFRARED)
  • 赤(レッド|RED: R)
  • 橙(オレンジ|ORANGE: O)
  • 黄(イエロー|YELLOW: Y)
  • 緑(グリーン|GREEN: G)
  • 青(ブルー|BLUE: B)
  • 藍(インディゴ|INDIGO: I)
  • 紫(バイオレット|VIOLET: V)
  • 紫外(ウルトラバイオレット|ULTRAVIOLET)

というセキュリティクリアランスによって区分されている3。上位の市民には服従せねばならないが、イエローとグリーンのあいだには社会階層の大きな断絶があり、たとえばイエロー市民はオレンジやレッドから真に尊敬されることはない。

コンピューターによる管理以前の世界は旧算世界Old Reckoningと呼ばれ、アルファコンプレックスの外に広がっている(放射能で荒廃した?)世界はアウトドアと呼ばれている。これらが存在した/することについての知識は制限されていないが、その実態についての情報はきびしく制限されている。

あなたはレッド市民4であり、コンピュータ様からトラブルシューターとして反逆者を排除する役目を仰せつかる。

では反逆者とは誰か。それは第一には秘密結社の構成員であり、第二にはミュータントである。秘密結社とはコンピューターに認可されない組織でアルファコンプレックスの転覆をくわだてるものである。ミュータントは出壜・・時の遺伝子異常により超能力を獲得するにいたったが、それを私利私欲のために使用するもののことだ。あなたはこれらの悪意の市民を告発し処刑せねばならない。

ところで、あなたは秘密結社の構成員であり、かつミュータントだ。つまりあなたは反逆者であるということになる。他のトラブルシューターにこのことを告発される前にあなたが先んじて告発せねばならない。

パラノイアとは何か。それは最も楽しいTRPGである。パラノイアを買おう。気を抜くな。誰も信じるな。レーザーガンを手放すな。

官僚制の快楽

さて、パラノイアの特徴としてゲームマスターの権力がすごいというのがある。「ゲームマスターは常に正しい」5ということがルールブックに明記されているし、ついたての後ろでダイスをふって出目を自由にえらぶこともできる。

これだけ聞くとたいへん雑なゲームであるが、(まあ実際雑なゲームではあるのだが)実はゲームマスターの権力の源泉は「正しいと明記されていること」ではなく、ゲームシステムにある。

パラノイアにおいて、ゲームマスターはウルトラバイオレット:UVという最上のセキュリティクリアランスをもっている。全市民の最上位であるからこれはこれでえらいのだが、ゲームマスターはすべてのNPCを演じるから、他にも様々な権力を使い分けながらゲームを進めることができる。

その最たる例がコンピューターだ。コンピューターはアルファコンプレックスの狂える支配者で、UV市民さえこれに従属している。ゲームマスターは、自分は良識的な管理者を装いつつ、ゲーム進行の不条理・理不尽な部分をコンピューターというNPCに押し付けることができる。ゲームマスター≠コンピューターであることが重要で、直接的にアルファコンプレックスの支配者となるよりもUV市民であるほうが円滑にプレイヤーをいじめることができる。

セキュリティクリアランスというパラノイア社会の階級制度もゲームマスターを助けてくれる。ゲームマスター = UV市民と、レッド市民であるプレイヤーとの間には様々な階級がはさまっている。たとえばオレンジ、イエローの下級市民にはじまり、緑の暴官グリーン・グーン、ブルーのブリーフィング担当官、インディゴの上級市民、他のウルトラバイオレットなど。これらをNPCとして活用することによってゲームマスターの横暴を隠蔽することができる。オンラインゲームでいうところのタンク役みたいなものか?

このような権力構造をゲームマスターがかんたんに使いこなせるところにパラノイアの設計の妙がある。ゲーム外のメタなところではなく、ゲームの内部に権力の源泉があることが重要なのだ。

原罪

アルファコンプレックスに降り立ったときから、あなたの任務は反逆者を始末することであり、あなたは反逆者である。なぜなら、キャラメイクをするときに所属する秘密結社と所持するミュータント能力を決定するからだ。

この、プレイヤーが最善の行動を取ったとしても罪をまぬがれないというのがパラノイアというゲーム全体をさらにおもしろくしている。泥んこ遊びみたいなもので、身体がきれいなときは抵抗感があっても、ひとたび泥がつけばタガがはずれてドロドロになることができる。キリスト教でいうところの原罪ですよ原罪。何のことだかさっぱりですね。

特にザップZAP・スタイル(後述)では、このことによって処刑に対する抵抗感がゼロになり、円滑にゲームを進めていくことができる。

資料: ミュータント能力たち

パラノイアには愉快なミュータント能力がたくさんある。その中でもぼくがおすすめする6ものをちょっと見ていこう。

火事場力アドレナリン・コントロール

アドレナリンを巡らせ、身体の限界を無視することで、筋力や敏捷性を超人レベルまで高めることができる(一分程度)。能力発揮後は、その代償として肉や骨、体組織に不幸な結果が待っている。わかりやすく、雑に強い。パワーには代償が伴うというミュータント能力の規範もよく理解できる。

皮膚迷彩カメレオン

皮膚の色素を制御し、周囲に溶け込むことができる。ただし、この能力はミュータント能力者がでないと意味がない。能力も役立つが、何かの間違いで裸でみんなの前に姿をあらわすことになったときがおもしろい。裸はおもしろい。アルファコンプレックスにおいてもそれは変わらない。

朧生成ヘイズ

光と音を撹乱する。ものは漠然としたかたちしか見えなくなり、声はフランジャー7がかかったようになる。「何かが起きていることはわかるが、誰が何をしているかはわからない」という状態になるため、狂気のいたずらスペースが爆誕する。

物体変化トランスミューテーション

物体(無生物)をちがう物体に変化させることができる。材料と目的物が、同じような素材でできていて同じような大きさであれば成功率は高まる。これもシンプルに強い。能力の発動に失敗したときは山盛りの爆弾とかが出てくる。

瞬間移動テレポーテーション

自分と、皮膚の外側数cmの範囲のもの8テレポートさせることができる。能力自体はまあ使いやすいが、失敗したときはおもしろい。自分の耳から肘がでちゃったりする。内臓だけテレポートさせるとか、君だけの失敗を考えよう!

ここでCM

「リトル・レッド・ブック」はプレイヤー(非GM)用の小さめのルールブックで、もとのルールブックの前半部だけを抜き出したものになっている。

全世界市民の精神的戦術核タクヌーク

ロールプレイ再考

さて、TRPGにおいて、ロールプレイは副次的な要素であるとしばしば言われる。ゲームが楽しく進行してさえいれば無理にロールプレイをする必要はないのだと。それはもちろん正しい。だが、一方、TRPGにはロールプレイしかないというのも事実である。ほかの遊びと比べてのTRPGの特徴・優位性のようなものだ。

さて、パラノイアはプレイヤーにある程度のロールプレイを要求すると同時に、キャラクター≒プレイヤーとなりやすい環境をつくることでその難易度を低くおさえている。

パラノイア【トラブルシューターズ】では、言い訳をしたり、同僚を売ったり、裏切り行為を告発したり、上位クリアランス者の靴をなめたりする際に、様々なロールプレイが要求される。単に「えー、『靴舐めBootlicking』の技能を使いたいんですが」などと宣言することはルールブックにおいてよしとされておらず、自分自身の言葉でロールプレイを行うことが第一とされる。

だが、他のTRPGとは異なり、パラノイアにおいてプレイヤーが演じるのは全体主義体制下の一市民であるから、それほどの「演技」は要求されない。プレイヤーのメタな発言とゲーム内のキャラクターの発言の区別さえついていれば、日頃しゃべっているような口調で発言してよいのだ。語尾でキャラ付けしたりしなくていいからシャイボーイシャイガールのみんなも安心でゲスね。

資料: ひどい技能の数々

靴舐めBootlicking

上位クリアランス者に媚びへつらい、追従し、懇願することで目的を達成するためのスキル。実際に靴を舐めるわけではない。もちろん舐めてもいい。パラノイアでは上位クリアランス者を脅すことが不可能に近い9から、これはアルファコンプレックスにおいてたいへん標準的な態度である。

手業Slight of Hand

ものを手のひらに隠してポケットにしまう、目にもとまらぬ速さでものを入れ替える、人のバッグに気づかれないように何かを入れる、といったことが行える。他のゲームでいう「窃盗」などに近いが、パラノイアにおいて支給品をなくしたり変なものを所持したりするのは反逆的であるから、このスキルは猛威をふるう。爆発物を懐に入れられてチリになったトラブルシューターをたくさん見たことがある。

プロパガンダPropaganda

共産主義者コミーたちの放つプロパガンダによって「親愛なる同志諸君ン!」などと言わされるプレイヤー、というのはパラノイアのリプレイでよく見られる愉快な風景である。しばしば勘違いされやすいが、プロパガンダは共産主義的なものに限られるわけではなく、全ての秘密結社が自社の主張を伝えるためのプロパガンダ技能をもっている。だが共産主義的プロパガンダがいちばん映えるのもまた事実である。「平等」とか「ブルジョワの豚」とかキーワードがわかりやすいしね。

もひとつ余談:目星について

余談だが、ぼくはクトゥルフ神話TRPGで部屋に入ったときにとりあえず目星を振らされるのを最悪だと思っている。ふつうには分からない隠し扉や仕掛けがあるという場合はもちろん別だけど、机のうえに何が置いてあるかさえ目星を振らないとわからないというのはバカげている。京極夏彦「姑獲鳥の夏」みたいですよね。

裏切りの輪

パラノイアのゲームマスターにとって重要なのは、プレイヤーに緊張感をあたえ、互いに対立させることだ。なぜなら、そうしたほうがゲームマスターが楽しいからだ。パラノイアのプレイヤーはゲームマスターのではなく娯楽だというのはルールブックにもしっかりと書かれている10

ここでゲームマスターがとるべき基本的な戦略はアメとムチ仲間を裏切ったり、ゲームマスターが思いもつかないような滑稽な方法で危機をくぐりぬけたプレイヤーには報酬をあたえる。ゲームを失速させ、雰囲気をそぐプレイヤーに対しては罰をあたえる。もちろん罰をあたえるといっても、全体としてパラノイアを楽しく遊んでもらうことは忘れてはならない。最高に笑える方法で罰をあたえよう。

秘密結社による方法

先述したように各プレイヤーは秘密結社に所属しているが、これはプレイヤー同士の対立を煽るうえで重要である。秘密結社はミッション中に各プレイヤーに指令をあたえる。それはゲーム中にトラブルシューターに与えられる公式の任務とは異なり、秘密結社の個別の目的に沿ったものになっている。トラブルシューター〇〇を殺せ、もしくは守れ、大事なものを壊せ、結社のプロパガンダを行え、……。

これらの指令は各プレイヤーの行動のわかりやすい指針となるもの11だ。これらを各プレイヤー間で対立するように配置することで、ゲームを大荒れの地獄穴にすることができる。

たとえばそれは、

  1. XにYを殺せと指示を出す
  2. YにZを殺せと指示を出す
  3. ZにXを殺せと指示を出す

といったような簡単なものでいいと思う。プレイヤーに内ゲバのお墨付きをあたえることが、楽しいゲーム進行のうえで重要である。

メモの重要性

パラノイアでは、他プレイヤーに知られたくないことをゲームマスターに告げるとき、メモをわたすことができる。たとえば

  • やつのポケットからレーザーガンを拝借したいのですが。
  • ミュータント能力で透明になってプレイヤーCのあとを尾行します。

といったような内容になるだろう。パラノイアは陰謀のゲームだから、積極的にメモをわたすことはたいへん重要だ。ゲームマスターはプレイの前にコンビニによってメモパッドのようなものを山ほど買っていこう。

資料: いくつかの秘密結社

コルポレ・メタル

機械による真の理性の実現を目的とするやべーやつら12メンバーの大半はボットであり、人間のメンバーも身体の部位を順次機械と交換していっている。トランスヒューマニスト的な側面もあるのかな?昔はコープ・メタリカと呼ばれていた気がする。

ロマンティクス

旧算世界に憧れるひとたちの秘密結社。「テレビ」で「フットボール」を見るとか、「車」による「通勤」とか、「フォースは我等にあり。登録商標ティーエム」とか、いろいろ旧算世界の知識を集めているようだが、それらは断片的で汚染されたものになっている。昔はロマンテクスだった気がする。

デス・レパード

ものを壊せ。楽しめ。トラブルを起こせ。楽しめ。反抗しろ。楽しめ。コンピュータを拒め。楽しめ。

p131

コンピュータへの反逆をいかに輝かしくおこなうかに命を賭けているひとたち。彼らの人生は極太で短いものになる。デス・レパード所属のプレイヤーがいるとストーリーが進みやすくなる、と思う。最悪の方向に。

コミュニスト

すべての秘密結社と敵対していることでおなじみ。彼ら自身も共産主義が何なのかよくわかっていないが、「コンピューターがこれだけ迫害するからにはいいものなんだろう」という理解でやっている。プロパガンダで結社の信条を感染させることをよしとする。

イルミナティ

かつて存在したが今は(おそらく)存在しない秘密結社。窮極の陰謀者、秘密のなかの秘密、と呼ばれているが、陰謀論の主体として想定されるような人たちということだろうか。プレイヤーがここに所属すると、深夜に叩き起こされて「コールドファン13を231パック盗んでちょうど22分後に焼却炉チューブ1Dに投下しろ」など、意味不明な任務に従事させられる。

補足:各種のプレイスタイル

クラシック

パラノイアの標準的なスタイル。すぐものが爆発したり処刑されたりするスラップスティック的な世界観だが、最低限の世界観は守られる。コンピューターは偏執病パラノイド的だが悪意はなく、アルファコンプレックスは官僚制度の重荷や巨大ミュータントゴキブリなどによって破綻寸前に見える。ブリーフィングにたどり着く前にクローンが何体か減っていることも日常茶飯事。

ストレート

「真剣な」プレイスタイル。ここではアルファコンプレックスは破綻しておらず、異様ではあるが理解可能な論理にもとづく全体主義的官僚機構として描かれる。プレイヤー間の争いも派手な撃ち合いではなく、策略、陰謀、慎重な証拠集めと告発などが主になる。オーウェル「1984年」の世界観。

ザップZAP

パラノイアのばかばかしさを象徴するクソアホスタイル。アルファコンプレックスは単なる混沌のるつぼであり、秒単位でクローンが死んでいく。ミッションそのものも最近人気の漫画やアニメのパロディとか、そういうものになる。共産主義者コミーたちは毛皮の帽子をかぶってひどいロシアなまりで喋り、両手に鎌と槌を持っている。ザップというのはレーザーガンが発射されるときの効果音で、プレイスタイルの名前であるとともに他のプレイヤーを処刑するときの掛け声にもなる。貴様反逆者だな!ZAPZAPZAP……。

ホラー

以下のふたつは【インターナルセキュリティ】で新しく言及されたプレイスタイル14なのだが、まあ余談ということで。これは1950年の赤狩りレッド・パージにも見られた「俺らの中に異物エイリアンがいる」という思想にもとづいたプレイスタイルで、アルファコンプレックスの人々が何者か――異星人か、人間に酷似したアンドロイドか、はたまた異次元からの侵入者か――に置き換えられていくという筋書きになる。プレイヤーもひとりまたひとりと置き換えられていくらしい(堕落者subverted)。「ブレードランナー」、「遊星からの物体X」など参照のこと。

ハイスト

泥棒ハイストスタイル。プレイヤーたちは盗賊団となってアルファコンプレックスでお宝をねらい、それは概ね成功するが、利益を山分けする段になって裏切りが生じる、というプレイスタイル。「レザボア・ドッグス」「ロック、ストック & トゥー・スモーキング・バレルズ」など参照。

  1. 「コンピュータ」と表記したいところだがルールブックにしたがう。
  2. 「出産」、「出生」みたいなこと。
  3. これは光のスペクトルを虹のように分割したものになっている。
  4. 【インターナルセキュリティ】ではブルー市民としてプレイすることができる。
  5. 最終的にはマスター・審判に従うというのはTRPGやらスポーツやらでしばしば見られる態度ではあるが、パラノイアの場合はゲームのルールや場の状況関係なく全面的にただしい。
  6. 使いやすい・ゲームが楽しくなるの意。
  7. 飛行機が離陸するときの音みたいなエフェクト。
  8. 要するに服もふくむということ。
  9. たとえばレーザーガンは上位の色をもったスーツには通用しない!弾かれてしまう。
  10. p42
  11. ゲームマスターがこれらの指令をうまく考えれば、初心者プレイヤーでもとんでもなくおもしろい事件を起こすことができる。
  12. いやまあ、やばくない秘密結社というのはないんだが。
  13. アルファコンプレックスのたべもの。
  14. オーバーキル・スタイルはインターナルセキュリティの世界観なしではザップ・スタイルとほぼ同じになってしまうので省いた。